サプリメント事典

-がん-

がん

目次
  • がんの原因
  • がんの予防対策
  • がん予防に効果効能があるサプリメント
  • サプリメント以外の予防

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関連情報

がんの原因

がんは特別な遺伝子が、異常を起こす事が原因です。特別な遺伝子とはプロトオンコ遺伝子(細胞の増殖を促進させる)とがん抑制遺伝子のことですが、この2つの遺伝子が両方異常を起こす事により細胞が、がん化します。遺伝子にダメージを与えて異常を起こさせる物質を、発がん物質と呼びその代表的物質は活性酸素です。

がんは遺伝子異常が原因であることは確かですが、その異常発生は遺伝的要因が約30%、外的要因が約70%です。

がんの遺伝的要因とは両親から受け継いだ遺伝子を意味します。

がんの外的要因は、食事や紫外線、喫煙、ストレス、過労などです。食事では脂肪が多く食物繊維が少ない欧米型の食事が増えたことで、大腸がんの発生が昔より増加しました。紫外線や喫煙では活性酸素が大量に発生します。過労やストレスは免疫力を低下させます。

がんの予防対策

がん予防対策としては、活性酸素を分解し消去する抗酸化剤を摂り、免疫力を高め、栄養面では脂肪を減らし食物繊維を増やすことがポイントになります。


がん予防に効果効能があるサプリメント

抗酸化剤または抗酸化剤を含んだサプリメント

その他

サプリメント選びのワンポイント・アドバイス

レスベラトロールを摂取すると、寿命遺伝子「サーチュイン遺伝子」が働き、老化要因を抑えがんを予防し てくれます。

カバノアナタケやマイタケなどのキノコ類は、有効成分βーグルカンを含み免疫力を高めます。

食物繊維は腸内の有害物質を体内から排出して大腸がんを防ぎます。

スプラウトは発ガン物質を細胞に侵入するのを防ぎ、体内の解毒酵素を活性する働きがあります。

ローヤルゼリーは免疫力を高めガンを予防して老化を防ぐ効果があります。

イソフラボンは乳がんや前立腺がんなどの、性ホルモンに関するがんを予防します。

葉酸は活性酸素によって傷ついたDNAを修復する作用があるので、がんの予防に役立ちます。

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サプリメント以外の予防

食事面では脂肪や塩分を控えて、食物繊維を多く含んだ野菜や果物を多く取り入れたバランスのいい食事を摂ってください。

生活面では適度な運動をしてストレスをためない様に休養をとり、タバコを吸う人はなるべく禁煙を心掛け、飲酒は適度に具体的には日本酒は1日1合ビールは大ビン1本程度です。

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関連情報


がんの免疫細胞療法

現在がんの治療方法は、三大療法と呼ばれる、手術と放射線療法、抗がん剤療法がありますが、「第四の柱」と呼ばれる「免疫細胞療法」に期待が集まっています。

免疫細胞療法の特徴は、人が持っている本来の自然治癒力を人為的に高めて、がんを治療しますので、副作用がほとんどありません。

免疫細胞療法について詳しく知りたい方は、コチラのページをクリックしてください。

がんの免疫細胞療法

がんの脊髄鎮痛法


脊髄鎮痛法とは
がんに伴なう痛みに対して、モルヒネなどの麻薬系鎮痛薬を大量に使っても、十分に効果がでないうえに、おう吐や便秘、眠気などの副作用が強く出てしまいます。これに対して、最近注目を集めているのは、脊髄に少量のモルヒネを直接注入して、痛みを和らげる「脊髄鎮痛法」です。

脊髄鎮痛法の方法
脊髄鎮痛法は脊髄を包む軟膜とくも膜の間のくも膜下腔(くう)にカテーテル(細い管)を差し込み、神経の近くに持続的に注入します。またくも膜の外側の硬膜外腔から、注入する方法もあります。

脊髄鎮痛法の効果
効果は硬膜外腔では、モルヒネの点滴の10倍で、飲み薬の30倍で、くも膜下腔はさらにこの10倍です。薬の注入量は1時間あたり0.1~0.5CCですので、おう吐や便秘、眠気などの副作用も解消します。
薬を詰める小型の携帯型ポンプでも、1週間程度は補充なしに使えます。くも膜下腔鎮痛法でしたら、自宅療養での使用も可能です。


がんペプチドワクチン療法(免疫細胞療法)



ペプチドワクチン療法は第4のがん治療法
がん細胞の一部を合成したワクチンを注射し、人が持つ免疫力を高め、がん細胞を撃退する「がんペプチドワクチン療法」の臨床研究が進んでいます。対象は、抗がん剤や放射線、外科手術などの標準治療が難しくなった進行がん患者に限られていますが、最後まで希望を捨てさせない、第4のがん治療法として期待されています。

ペプチドとは、たんぱく質の一部分で、アミノ酸が複数結びついたものです。がん細胞の表面には、がん細胞特有のペプチドが存在します。

ペプチドワクチン療法は、以下のような手順で行われます。

①がん細胞の表面にある、がん細胞特有のペプチドを、ワクチンとして人工合成し、患者に注射します。
②人体の免疫システムは、注射で外部から侵入したペプチドを、細菌やウイルスなどの病原体と同じ異物と認識します。
③免疫システムは異物を攻撃する「キラーT細胞」を増殖させ、がん細胞そのものを破壊します。

以上のようにペプチドワクチン療法は、人為的に免疫作用を強化させる免疫細胞療法です。

ワクチンは通常、敵(病原体)の体内への侵入を防ぎますが、ここでは、体内で生まれた敵(がん)を排除するのが目的です。

直径10センチのがんの細胞数は、キラーT細胞の数千倍ともいわれ、その差は圧倒的。ペプチドワクチン療法はキラーT細胞を人為的に増やし、キラーT細胞に攻撃目標を指示して、がん細胞の増殖を抑え、減らすことを目指します。

ペプチドワクチン療法の臨床研究
女性A(34)は約2年前に手術で膵臓がんを切除しましたが、約3か月後に肝臓への転移が判明しました。

抗がん剤治療を始めましたが、がんは2か月後に倍以上に肥大し、医師からは治療の継続が困難と告げられました。

ペプチドワクチン療法の臨床研究が行われている千葉徳洲会病院(千葉県船橋市)を知り、昨年4月から、最初の2か月間は週1回、その後は月2回、太ももの付け根にワクチン(1回1㏄)の皮下注射を受けてきました。がんは3センチまで増大しましたが、今年5月中旬には4分の1に縮小しました。

女性は「一時は緩和ケアも考えましたが、最後までがんに向き合う気持ちが持てました」と話しています。

ペプチドワクチン療法は、外科手術や抗がん剤、放射線などの標準的な治療が難しく、使用するペプチドを異物と認識する白血球の型(HLA)を持つ患者に行われます。

白血球の型(HLA)とは、白血球の血液型のことです。このため白血球の型(HLA)と使用するペプチドの種類の組み合わせによって、免疫システムが働く人と、働かない人がでてしまうのです。

注射回数は各施設で多少異なりますが、多くは週1回程度です。東大医科学研究所教授の中村祐輔さんらが開発したワクチンは、ほぼすべての臓器のがんが対象になります。各臓器のペプチドが異なるため、がんの種類に応じて使い分け、最大5種類のペプチドを混ぜます。

同研究所は2006年8月から今年5月中旬に、全国59施設で約1050人に実施。生存期間の延長効果などを分析中ですが、明確な結論は出ていません。発熱や注射部位の皮膚の炎症などがありますが、重い副作用は確認されていないといいます。

中村さんは「標準治療を尽くして免疫力が低下した後ではなく、より早い時期にワクチンが使えれば、さらに効果が表れる可能性がある」と強調しています。

ペプチドワクチン療法は、ほぼすべての種類のがんに共通して存在するペプチド「サバイビン」に注目したワクチンを開発した札幌医大や、約30種類のペプチドから患者の体質に最も適合する数種類を用いる久留米大学などでも臨床研究が行われています。

治療を希望する場合、ワクチン療法に関しては、患者の費用負担はないといいます。

関係医療機関

東大医科学研究所 (℡03-3443-8111)

札幌医大 (℡011-611-2111 内線2691)

久留米大 (℡0942-31-7975)

関連ページ

がんの免疫細胞療法


肝臓がんのラジオ波治療



肝臓がんのラジオ波治療
肝臓がんを切らずに治す「ラジオ波治療」は、おなかに針を刺して電気の熱でがんを焼く方法で、3センチ以下の小さながんなら、手術と変わらない成績を上げています。ただ、熱で周りの臓器を傷つけるなどの事故も起きており、長所と短所をよく理解して治療を受けてください。

肝臓がんのほとんどは、C型肝炎やB型肝炎が原因で、肝機能が低下する肝硬変が進むことで起きます。再発しやすく、治療を繰り返すことが多いので、体に負担の少ない治療が重要になる。ラジオ波治療は、手術に比べ、体への負担が格段に少ないのが特長です。

高周波発生装置とコードでつないだ長さ20センチほどの電極針を、超音波検査の画面を見ながら肝臓に刺します。はがき大の電極板を太ももに張り、電極針との間に電気を流すと、表面積の小さい電極針の周囲だけが高温に熱せられる仕組みです。

1個のがんを焼くのにかかる時間は、10~15分間です。肝臓の表面は痛みを感じるため、治療中は痛み止めの薬を点滴します。数日後にCT検査を行い、がんが残っていないかどうか調べます。1週間ほど入院する必要があります。

その他の針を刺す肝臓がん治療
おなかの外から肝臓に針を刺す治療には、ラジオ波のほかに、アルコール注入とマイクロ波治療があります。

アルコール注入は、高濃度のアルコールでがんを死滅させる簡便な方法です。比較的細い針を使うので出血も少なく、安全性は高いです。ただ、注入したアルコールが拡散し、がんの部位にとどまらないことがあり、確実性に欠けます。

マイクロ波は、ラジオ波と同様に熱でがんを焼くため、確実性が高いです。ラジオ波が電熱器なら、マイクロ波は電子レンジのように高周波を針先から発生させます。ただ、焼ける範囲はやや狭いです。

針を刺す治療の9割はラジオ波で行い、がんが肝臓の表面に近く、周囲へ熱が及ぶ危険がある場合はアルコール注入治療、といった使い分けがされています。

肝臓がんの治療法は、がんの大きさや数、肝機能によって選択されます。肝機能が比較的良ければ、がんが大型でも1個なら、一般に手術の対象になります。ラジオ波治療の対象は、3センチ以下が3個以内」と、がんがやや小さいことが条件です。

虎の門病院の場合、肝臓がん治療のうち、手術が2割、ラジオ波など肝臓に針を刺す治療が4割ほどです。残りは、がんが大きい、肝機能が悪い、などの理由で、「がんに栄養を運ぶ血管をふさぐ」「抗がん剤を動脈から直接注入する」といった治療になっています。


関係医療機関 虎の門病院


子宮がんの広汎(こうはん)子宮頸部摘出術



子宮頸(けい)がん
子宮がんには、入り口(頸部)にできる子宮頸がんと、奥の部分にできる子宮体がんがあります。
子宮頸がんには、早期であれば、頸部を円錐(えんすい)状に切り取って子宮全体は残す「円錐切除術」が広く行われています。ただ対象は、がんが子宮頸部の浅い部分にとどまる0期から1a1期に限られ、病巣が広がったり深くなったりした場合、通常は子宮を摘出しなければならない。

広汎(こうはん)子宮頸部摘出術
これに対し、子宮を温存する「広汎子宮頸部摘出術」は、子宮頸部と膣(ちつ)の一部、周囲のリンパ節と子宮をおなかの中で支える組織(基靭帯)を切り取り、残した子宮体部を膣につなぐ方法です。

この治療は、がんがやや進行した1a2期から1b1期までが対象になります。ただし、がんが2センチ以上か、「腺がん」というタイプの場合は転移の危険が高く、この治療を受けられるとは限りません。周囲のリンパ節へ転移がある場合も子宮を摘出します。

ただ、妊娠しても早産しやすい傾向があり、子宮の入り口を縛り直す緊急手術を行う場合もあります。
欧米データでは、がんの再発率は子宮全摘手術と変わりませんが、安全性が確立しているとは言えず、妊娠中も画像診断などで再発していないかチェックが欠かせません。

広汎(こうはん)子宮頸部摘出術は、がん治療にあたる医師と、産科、小児科医が緊密に連携して初めてできる治療と言えます。

子宮体がんの温存治療
子宮体がんでも温存治療が進んでいます。がんの広がりを防ぐため黄体ホルモンを毎日服用して内膜の増殖を抑えながら、内側を覆う子宮内膜を、細い棒状の器具を挿入して定期的にはがし取ります。
がんが子宮内膜にとどまる1a期のほか、将来がん化する可能性が高い「子宮内膜異型増殖症」も治療の対象です。

黄体ホルモンの服薬中は、4週間ごとに超音波で内膜の厚さを確認します。治療は4か月から半年かかります。再発した場合、治療をもう一度繰り返すこともできますが、子宮を摘出せざるを得ないこともあります。十分な経過観察が治療成功のカギになります。

関係医療機関 慶応大学病院


がん治療前の不妊対策「ガラス化法」と「放射線遮断」


不妊対策「ガラス化法」
白血病や悪性リンパ腫などの血液のがんには、骨髄移植などの治療が行われます。その際、事前にがん細胞を退治するため、前処置として抗がん剤治療や全身の放射線照射を行います。その影響で卵巣や精巣の機能が失われ、不妊になることが多いです。

男性の場合、精子を事前に凍結保存する方法が普及してきましたが、女性の場合は卵子の採取や保存が難しく、これまで凍結保存はほとんど行われていませんでした。がんが治っても、「不妊」という後遺症に悩む女性も少なくありません。

未受精卵は受精卵に比べてもろく、低温になると細胞内の水分が氷の結晶構造を作るために膨張し、細胞が壊れやすいです。凍結しても、従来の方法では解凍後の卵子の生存率は約2割にすぎず、体外受精で出産に至る確率はわずか1%程度とされていました。

しかし、未受精卵を凍結保存する従来とは異なる新しい手法が開発され、注目されています。加藤レディスクリニック(東京・新宿)研究開発部長の桑山正成(くわやままさしげ)さんが開発した「ガラス化法」と呼ばれる凍結法です。これまで動物の卵子凍結に使われていましたが、1999年にヒトヘの応用に成功し、解凍後の未受精卵の生存率が98%へと飛躍的に高まりました。

「ガラス化法」は、細胞内の水分を毒性のない特別な溶液に徐々に置き換え、氷の結晶を作らないように凍結させます。この結晶がガラスと似たような構造を持つことからこの名がつきました。

同クリニックでは、ガラス化保存した未受精卵29個を体外受精させ、すでに5人の子供が生まれました。いずれも不妊患者への一時的な措置として凍結されたもので、まだ白血病患者のケースはありませんが、桑山さんは「他の不妊治療施設にもノウハウを伝え、全国の白血病患者の要望に応えていきたい」と話しています。

放射線を遮断して卵巣機能を守る手法
しかし、「ガラス化法」ですと卵子の採取には、月経開始から約10日間、排卵を誘発する薬物治療を続ける必要があり、病状が急激に進行してしまった場合には実施が難しいです。凍結保存した場合でも、体外受精で妊娠に至る確率は一般に2-3割と高くありません。未受精卵の凍結保存で生まれた子供の健康に関する長期データもありませ。

そこで、がん患者には別の方法も試されています。骨髄移植の前処置の全身放射線治療の際、卵巣の部分だけを厚いタングステンで覆い、放射線を遮断して卵巣機能を守る手法です。

東大病院では、無菌治療部と放射線科が共同して、2002年からこれまでに3人の患者に実施、うち2人は治療後に月経が戻り、卵巣機能が回復しました。しかし、残りの1人は白血病が再発しました。再発が起きた部位は卵巣ではなく、卵巣に放射線照射をしなかったこととの因果関係は不明ですが、同部特任講師の神田善伸(かんだよしのぶ)さんは「十分に説明した上で慎重に進めたい」と話しています。

白血病専門医らで作る日本造血細胞移植学会は、治療後の不妊に対処するため、生殖医療の最新情報を患者に提供することになりました。

未受精卵の凍結保存を行う施設はまだ少なく、放射線の遮断も東大でしか実施されていません。

同学会前会長で岡山大教授の谷本光音(たにもとみつね)さんは「不妊対策について、治療前に主治医に相談してほしい」と話しています。

骨随移植の前処置と卵巣機能
抗がん剤のエンドキサンを使った場合の卵巣機能回復率は68%、エンドキサンとブスルファンの組み合わせでは2%、エンドキサンと放射線照射で15%という海外のデータがあります。移植後の妊娠を望むのでしたら、その可能性も含め、早めに主治医に相談してください。

関係医療機関 

加藤レディスクリニック

東大病院


肺がんの治療薬「イレッサ」



肺がんの治療薬「イレッサ」の効果への評価
国際的な臨床試験で延命効果が証明されなかった肺がん治療薬「イレッサ」(一般名・ゲフィチニブ 製造元・アストラゼネカ)について、厚生労働省の専門家検討会は2005年3月、「東洋人には効果が示唆された」として使用断続を決めました。

「がん細胞を狙い撃ちする」と言われたイレッサは、2002年7月に、大きな期待を集めて日本で承認されました。がんが小さくなるなど効果が現れる患者がいる一方、重い肺炎による副作用死が続出しました。

「夢の新薬」か「危険な薬」か、評価が分かれる中、日本を除く海外28か国・約1700人の患者を対象に行った臨床試験で、製薬会社は2004年12月、イレッサの延命効果が認められなかったことを明らかにしました。

しかし、厚生労働省の検討会はデーターを再分析して、「東洋人に限ると延命効果が示唆される」と結論しました。これを受けて厚生労働省は使用断続を決定して、日本肺癌学会が作った、新たなイレッサ使用指針を参考にする旨、医薬品の添付文章に記載するように、指示しました。

指針は、(1)非小細胞肺がんの一種・腺がん(2)女性(3)非喫煙者(4)日本人または東洋人(5)がんの増殖と関連があるEGFR(上皮因子受容体)の遺伝子に異変がある、これらの患者は薬の効果が得られやすいとして、投与を推奨しています。

肺がんの治療薬「イレッサ」の使用方法
厚生労働省の使用断続を決定に対し、薬の作用に詳しい医薬品・治療研究会代表の医師、別府宏圀さんは「試験結果から一部だけを抜き出して『東洋人に延命効果』というのは、解析方法として信頼度が低い。そもそも日本人への延命効果は分かっていないのに、日本人なら誰でもが服用できることになり、有効で安全に薬を使用できる患者の絞込みに、なっていない。」と指摘しています。

しかし現時点では、既にこの薬を服用し、効果が表れた患者は、副作用に注意しながら服用を続けてよいと考えられています。毎日1錠を原則として効果がある限り飲み続けます。

重い肺炎の副作用は服用を始めて1か月以内に起きる危険性が高いですが、4か月目に急に発症した例もあります。息切れ、呼吸困難、せき、発熱などの症状が出たら、すぐに主治医に連絡する必要があります。

一方、新たにこの薬を使う場合、判断は簡単ではありません。注目されるのが、薬の効果を予測する遺伝子検査です。

イレッサは、肺がん細胞の表面にあるEGFR(上皮成長因子受容体)と呼ばれるたんぱく質に作用し、がんの増殖を抑えるとされています。この受容体に遺伝子変異があると、薬が効きやすいとの研究があります。日本人、特に女性や、非小細胞肺がんの一種、腺がんの患者は、遺伝子変異の割合が高いとされています。この検査で事前に効果を判定しようというわけです。ただ、まだ研究段階の検査であるうえ、実施できる病院も限られています。

イレッサと遺伝子検査
東大医科学研究所の教授・中村祐輔さんらは、がん細胞の増殖にかかわる12種類の遺伝子を調べることで、イレッサの効き目を投与前に見分ける方法を開発しました。同研究所付属病院で2004年9月から、この方法で診断する臨床研究を始めました。中村教授は「患者1人1人に合わせて治療法を選ぶことができれば、薬の効果を最大限に生かせる」と話しています。

効果や副作用の仕組み、日本人での延命効果など、この薬には未解明な部分が多です。それを十分に理解した上で治療法を選択してください。

関係医療機関 東大医科学研究所付属病院


肺がんの胸腔鏡(きょうくうきょう)手術



一般的な手術と胸腔鏡手術
肺がんの一般的な手術では、横向きに寝た患者の肩甲骨に沿って、背中側から胸の側面まで40センチほど切開し、肋骨と肋骨の間を器械で押し広げて手術します。この方法が肺がんの標準治療として確立されている反面、胸の筋肉を切断するため、治療後の痛みが長く続き、患者への負担が大きいです。

これに対し、体を大きく切らずに済む方法が胸腔鏡手術です。体の側面に2-3センチの穴を4、5か所開け、小型カメラ(胸腔鏡)や自動縫合器などの器具を差し込み、カメラが映し出した内部の映像をモニターで見ながら、器具を操作します。

胸部を切る手術は、胃や腸など腹部の手術に比べても、手術後の痛みが強いです。胸腔鏡手術は、この痛みを著しく軽減できます。衰弱して通常の手術では体力的に耐えられない方や、高齢の患者でも行える点も長所です。

慈恵医大外科教授の森川利昭さんによると、平均的な手術時間は3時間余で、開胸手術より約1割長いですが、手術後の入院日数は約1週間と従来の半分程度に短縮されるそうです。

胸腔鏡補助手術
「胸腔鏡手」は、術患部を肉眼で直接見ることができないなどの制約から、外科医には高い技術が求められます。肺がん手術ではとくに、肺と心臓を結ぶ肺動脈などを誤って傷っけてしまうと大出血を招き、命にかかわります。胸を大きく切る手術では迅速にできる止血措置も、胸腔鏡手術では難しいです。

このため、完全に胸腔鏡だけで手術するのではなく、胸腔鏡のモニター映像は補助的に用いながら、通常の手術より小さい10センチ足らずの切開口から肉眼でも見ながら手術する「胸腔鏡補助手術」も広く行われています。

胸腔鏡手術は1992年、原因不明で肺に穴が開く気胸などの手術から始まり、次第に肺がんのような難しい手術にも使われるようになりました。森川さんは2000例を超える胸腔鏡手術の経験を持ち、10年前から肺がん手術にも本格的に導入しました。

一般的には、リンパ節転移のない早期(1期)の肺がんが胸腔鏡手術の対象となり、5年後の生存率は、通常の開胸手術の場合と変わらない成績をあげています。森川さんの場合は「それより進んだ肺がんでも、可能なら胸腔鏡で行う」方針だそうです。

胸腔鏡など内視鏡を使った手術は高度な技術が求められるだけに、消化器外科や婦人科、泌尿器科の学会は、手術の実技ビデオ審査による技術認定を始めました。しかし、肺がん胸腔鏡手術などの呼吸器外科分野では、技術認定はまだ実施されていません。医師によって、手術の方法も少しずつ異なります。手術経験数や長所、短所など、よく説明を聞いたうえで治療を受けてください。

肺がんの治療
肺がんは喫煙の影響が大きく、年間死者数は57000人と胃がんを抜いてトツプになりました。患者の85%は「非小細胞肺がん」というタイプで、早期なら手術などによって根治が期待できますが、「小細胞肺がん」という進行が早く悪性のタイプもあります。リンパ節転移が広がって進行した場合には、シスプラチンなどの抗がん剤と放射線を組み合わせた治療が中心になります。

また、がんが肺にとどまって手術での根治が期待できる1期のがんに対して、放射線をピンポイントで照射する治療が2005年に保険適用されました。体力的に手術が難しい高齢患者らへの体に負担の少ない治療として期待されています。

関係医療機関 慈恵医大病院


早期肺がんの放射線治療「動体追跡照射」



早期肺がんの放射線治療
早期肺がんの放射線治療では、「定位照射」と呼ばれる方法が、2004年から保険適用になりました。治
療台に横たわる患者の周りを、治療装置が回転しながら、様々な角度から照射し、がん病巣に放射線を集中
させる方法で「3次元照射」「ピンポイント照射」ともよばれていて、手術と同等の治療成績とされていま
す。

ただ、肺がんなどは、呼吸とともに位置が動くため、照射の狙いがずれる恐れがあります。そのため、一般
には治療直前にコンピューター断層撮影法(CT)などで位置を確認し、患者が呼吸を止めた状態で照射す
る方法が多いです。

ズレを極力抑えようと、患者の体を器具で固定する方法もあります。呼吸による病巣の移動対策は、病院ご
とに、さまざまな工夫がされています。

北海道大病院が用いる方法は、治療台の周りにX線透視装置を設置し、まさに治療の最中に動くがんの位置
を即時に把握します。

同大学教授の白土博樹さんによると、治療前にがんの位置を確認する方法では

1.治療に移るまでの間に、患者の体が微妙に動く
2.呼吸の止め方次第でがんが狙った位置からずれる

などの恐れが、あるそうです。

「動体追跡照射」は、こうした弱点を克服しようと考案され、同病院は1999年から導入しています。

定位照射を確実に行う「動体追跡照射」
初めにがん付近に直径2ミリの金の球(マーカー)を挿入する。肺がんの場合は口から、気管支ファイバー
という管を差し入れ、がん近くの気管支の細い所にマーカーを置いてきます。その後、CT検査で、がんと
マーカーの位置をコンピューターに記録します。微妙な角度の誤差も見逃さないよう、通常、挿入するマー
カーは3、4個で、挿入にかかる時間は20~30分といいます。

治療の際は、患者が治療台に乗った状態で、2方向からX線透視装置を用いて0.03秒ごとに患部を撮影
します。2枚の画像に映るマーカーの位置から、コンピューター計算で3次元の位置をとらえ、追跡します


マーカーの位置があらかじめ計画された照準にある瞬間だけ、放射線を照射します。照準に捕らえてから照
射までの時間差はわずか0.05秒で、「臓器の動きに遅れることはありません」(白土さん)といいます
。照射装置は治療台の周りを回転し、さまざまな角度から照準へ放射線を集中させます。

治療は1回10~40分で、4回行います。肺の下部など、動きの大きい位置にがんがある場合に治療時間
が長くなります。

白土さんによると、この治療の対象となる肺がんは直径5センチ以下の早期がんで、転移のないタイプです
。同病院では、動体追跡を、定位照射だけでなく、がんの形に合わせた照射ができる「強度変調放射線治療
」(IMRT)にも応用し、前立腺がんの治療にも使います。

白土さんは「この動体追跡照射で前立腺も、治療中にかなり動くことが確認できました。放射線による直腸
炎、ぼうこう炎などの副作用も、大幅に減らせるようになりました」と語っています。

関係医療機関

北海道大病院


乳がんのセンチネルリンパ節生検


乳がんの治療
乳がんは、血流や、老廃物を運ぶ体液であるリンパの流れに乗って広がります。リンパ節にがんが転移した場合、全身にも転移する可能性が高いと考えられ、手術では、がんとともに、わきの下のリンパ節もとるのが標準的な治療になっています。実際にとらないと転移の有無が確認できないため、画一的に切除されてきました。

しかし、リンパ節をとると、後遺症が起きやすくなります。リンパの流れが悪くなって老廃物と水分が組織にたまり、腕がむくんだり動きにくかったりするリンパ浮腫(ふしゅ)に苦しむ患者は多いです。
これを防ぐために注目されているのが、センチネルリンパ節生検です。

センチネルリンパ節生検
センチネルは「見張り」を意味し、乳房のがんが、リンパ管を通じて最初に流れ着いたリンパ節を指します。最初に転移するリンパ節で、ここに転移がなければ、その先のリンパ節にも転移がないと判断し、切除を避ける方法です。

手術前に、乳房に放射性同位元素や色素を注射し、色素に染まったり、放射性同位元素が集まったりしたリンパ節(通常2~3個)をセンチネルリンパ節として摘出します。

同様の検査は、皮膚のがんである悪性黒色腫で始まり、乳がんにも1990年代後半から実施されています。この検査により、95~100%の確率で、リンパ節転移の状況を正しく判定できると言います。

気になるのは、リンパ節を切除しなくても、がんの治癒率に影響しないのかという点です。
欧米では、約500人の患者を対象に、この検査を使って治療する場合と、従来通りリンパ節を一律に切除する手術とを比べた臨床試験では、生存率に差はないという報告があります。有効性を確かめるために、さらに数千人規模の試験が進行しています。

埼玉県立がんセンターでは、これまでに検査した約1100人の約76%は「リンパ節転移なし」と診断され、リンパ節を切除せずに済みました。

ただし、検査でセンチネルリンパ節が見つからないことや、手術中の診断では「転移なし」だったのに、手術後の精密な診断で転移が見つかる場合も、まれにあります。その場合、リンパ節を切除するかどうかなど、事前に話し合うことが必要です。

同センター病理科長の黒住昌史さんは「不要なリンパ節切除によって、後遺症に苦しむ患者は少なくない。まだ確立した治療法ではないが、今後さらに広がるのではないか」と話しています。

関連医療機関 埼玉県立がんセンター

関連ページ リンパ浮腫の顕微鏡下リンパ管細静脈吻合術(ふんごうじゅつ)


「乳がん内視鏡手術」による乳房の温存



乳がんの手術
乳がんの手術には、がんを乳房ごと切除する全摘出手術と、がんとその周囲だけを切除する温存手術があります。早期の乳がんでは、温存手術を放射線治療と組み合わせれば、全摘出手術と比べても生存率に差がなく、国内でも普及しています。

温存手術には、しこりだけをくり抜く方法や、しこりとその周辺を円状または扇状に切除する、といった方法があります。乳房は残せるが、乳房の表面にメスを入れた傷跡がつく上、傷を縫い合わせる時に、表面の皮膚を引っ張ることで、変形してしまうこともあります。

乳がん内視鏡手術
内視鏡を使った手術は、通常の手術と比べて傷が小さく、傷がついたとしても目立たない場所を選んで、メスを入れることができるのが特徴です。美容の面から1995年に日本で始まりました。

まず、わきの下や乳房のすぐ外側か下、乳輪などのうち1、2か所を選んで小さい穴を開け、内視鏡(小型カメラ)や手術器具を入れます。モニターで乳房内の拡大画像を見ながら器具を操作し、がんができた乳腺組織を脂肪組織と大胸筋から引きはがし、電気メスでがんとその周囲を取り切ります。乳房に残った可能性のある微細ながんを根絶するため、手術後には放射線を照射します。

日本内視鏡外科学会の調査によりますと、2003年末までの時点で、この治療は63の施設で実施されています。問題点は、従来の温存手術と比べて治療効果が劣らないか、とういう点です。まとまったデーターはありませんが、これまでに約300件の手術を行った、駿河台日大病院によりますと「手術から5年後の生存率は従来の手術と変わらない」と言っています。

がんの大きさに比べて乳房が小ぶりですと、内視鏡を使った手術でも乳房の変形が大きくなる場合があります。そこで、温存が可能な早期がんに限り、乳房全体としこりの大きさのバランスを見極めて、実施する施設が多いです。

駿河台日大病院では
・がんの大きさが3センチ以下であること。
・切除範囲が乳房全体の3割を超えないこと。
などの条件を設けています。

温存手術と聞くと、乳房の傷跡や変形も残らないと、誤解している人も少なくありません。医師から「温存が可能」と言われたら、医師に予想される傷跡や変形の程度を尋ね、内視鏡を使う手術が可能か聞いてください。内視鏡を使った手術は、保険が適用されます。

亀田メディカルセンターでは、乳房の全摘出手術にも内視鏡を使います。内視鏡を使った場合、乳房に傷がつかないだけでなく、表面の皮膚がのこせるため、後に乳房を再建する時に、より美しくできるそうです。

関係医療機関 駿河台日大病院 亀田メディカルセンター


がん放射線治療「トモセラピー」



がんの放射線治療
手術に比べ、放射線治療は体にメスを入れないため、負担が少ないです。特に最近は、放射線を患部の狙った所に集中照射する装置が普及するなど、進歩はめざましいです。

肺がんのように、複数の部位にがんが広がる患者の方の治療で、注目されるのが「トモセラピー」です。「トモセラピー」は「トモ(Tomo=tomogram)」(断層写真)と「セラピー(therapy)」(治療)を合わせた造語です。コンピューター断層撮影と、病巣を狙い撃ちする放射線治療の機能を併せもちます。米国の医療機器メーカーが、2003年に開発しました。

放射線治療「トモセラピー」
装置は、巨大なドーナツ形の照射装置と寝台で構成されています。外観は、コンピューター断層撮影法(CT)診断装置と同じですが、寝台に乗った患者が、その場で画像撮影と放射線治療を受けることができます。

一般的な放射線治療では、患者はCT撮影室で画像診断し、放射線治療室に移動して治療を受けますが、これでは照射の位置が病巣から外れる可能性があります。これを防いで正確な照射を行うため、撮影と治療の装置を合体させました。

ドーナツ形の装置には、可動式の長方形の照射口が1か所あります。これが1回転し、360度すべての方向から病巣部を狙います。照射口には、64枚に分かれたタングステン製の「ふた」があります。
このふたをコンピューターで開閉させ、照射範囲や線量などを調節します。「強度変調放射線治療」(IMRT)と呼ばれる手法ですが、複数の患部を同時に照射することができる点が、この装置の特長です。

「トモセラピー」によるがん治療
正常組織への影響を最小限にし、がんを効果的にたたくため、綿密な治療計画を立てます。まず、磁気共鳴画像(MRI)や陽電子放射断層撮影(PET)など複数の画像診断で、患部を正確に特定し、照射線量や照射時間などを計算します。

治療当日は改めてトモセラピーの画像を、撮影済みのMRI画像などと重ね合わせ、位置、照射量などを最終的に決めます。1回の治療は、準備時間も含め約15~20分。照射時間は3~5分と短いです。

照射装置に合わせて寝台も動き、患者の頭部から足まで照射します。複数の患部を一度に攻撃でき、治療回数が少なくて済みます。患部を様々な複数の方向から照射する、通常の「三次元照射」に比べても、いっそう正確に照射できます。

北斗病院では、2005年9月に導入しました。病巣が数か所あったり、脳や肺などに転移があったりする場合、従来の治療に比べ、病巣部が消失または縮小する患者が多いと言います。

照射場所によって頭痛や下痢、だ液が出にくくなるといった副作用は生じるものの、従来の放射線治療に比べて少ないそうです。保険は適用されます。

関連医療機関 北斗病院


前立腺がんの待機療法(無治療経過観察)



進行が遅い前立腺がん
前立腺がんの検診では、採血によるPSA(前立腺特異抗原)検査が行われます。正常値は「4」以下ですが、肥大や炎症でも上がります。PSA検査でがんの疑いがあれば、外側から前立腺に刺した針で細胞を取り、顕微鏡で調べる生検を行います。

この検査の普及で、早期の前立腺がんが見つかる人が増え、新たな問題が生まれました。
前立腺がんは進行が遅く、命を脅かす場合でも発見から平均10年かかります。また、ほかの原因で亡くなった人を解剖すると、七十歳以上の20-30%に前立腺がんが見つかりました。がんと言っても、おでき同様に、危険のないものが一定数あります。

ところが治療となると、手術では男性機能の低下が半数に見られ、5-10%の人には尿漏れが残ります。放射線治療でも排尿や排便の障害が起こる場合があります。注射や飲み薬によるホルモン療法は、がんを殺すのではなく抑えるものですが、やはり男性機能は失われたり、顔がほてったりします。

香川大泌尿器科教授の寛善行さんは「病巣が小さく、増殖速度が遅いものはある程度、見分けることができます。しかし100%完全ではないので、慎重な経過観察が必要になります」と説明しています。

待機療法の基準
待機療法(無治療経過観察)では、2、3か月に一度PSAをはかり、それを基に半年ごとに、増殖のスピードを判断します。寛さんたちは、待機療法が可能な基準を設定しています。

1.がんの進展度
PSAは10以下が望ましく、前立腺内にとどまるがんで、直腸から指を入れてもがんに触れない「T1c」という段階。PSA検査でがんが見つかった患者さんの六割は、このタイプです。

2.大きさ
生検では通常、針を6-12か所に刺します。このうちがんが出たのが2本以下が対象になります。
それを超えると、大きいと判断されます。さらにがんが出た組織を顕微鏡で見て、がんが占める占拠率が50%以下なのも条件になります。

3.悪性度
がん細胞の悪性度を示す10段階の「グリーソンスコア」という指標があり、顕微鏡による観察で診断します。数字が高いほど悪性度が高く、6以下が対象になります。

前立腺がんと言われた時に、医師にこの、三つの要件を質問すれば、待機療法が選択可能かどうかわかります。

経過観察中に、増殖が早く、2年以内にPSAが元の数値の2倍になりそうなことが予想される時は、手術や放射線などの治療を始めてください。研究を目的に登録した50人では、3年で35%が経過観察を中止し、治療を受けました。

寛さんは「待機療法には、治療をしないですむか、先延ばしにできる利点があります。しかし、一部の患者さんでは、治療の開始が遅れる場合があることも留意して下さい」と語しています。

関係医療機関 香川大泌尿器科


早期胃がんの切開はく離法


胃がんの内視鏡治療
胃がんは、胃の内側を覆う粘膜の表面から発生し、胃の壁の深くへと進行する。深さと広がりの程度によって、治療法が決まります。粘膜にとどまる早期のがんは、内視鏡で切除するのが標準的な治療です。口から内視鏡を入れ、先端に着けたワイヤをがんの周囲にかけ、高周波の電流を流して焼き切ります。

日本胃癌学会の胃がん治療指針では、内視鏡による粘膜がんの切除は「ワイヤをかけて一度に切除できる大きさが望ましい」とし、その大きさを2センチ以下としています。

国立がんセンター中央病院内視鏡部の後藤田卓志さんは「がんの取り残しを避けるためがんの周辺にゆとりを取って切り取る必要があるので、ワイヤをかけて切除する方法は、実際には基準よりさらに小さいがんが対象になる」と話します。

大きめのがんは、二、三回に分けて切り取る形になるが、分割して切ると、十人に一人程度は、がんのあった部位周辺に再発します。がんの中にワイヤを差し入れるので、取りこぼしが起こるためです。こうした再発は、手術で取り除けば命にかかわることはないため、分割切除も行われています。

ただ、粘膜にとどまるがんでも大きさが3センチほどになれば、通常は胃の三分の二程度を切除する手術を行います。胃が小さくなり、たくさんは食べられなくなります。

切開はく離法
この手術を避けるため、国立がんセンター中央病院は、がんが大きめの場合「切開はく離」を行います。ワイヤをかけて分割切除する方法と異なり、ITナイフという電気メスを使い、患部を一括してそぎ取ります。切開はく離を行うことにより、粘膜がんなら大きくても、手術にならずにすむわけです。

同病院で治療を受けた千人を超える患者のうち、これまで再発した人はゼロです。各地の病院でも、優れた治療成績をあげ始めています。

ただ、後藤田さんは「ワイヤで取る方法が15分程度で終わるのに対し、メスでそぎ取るので一時間ぐらいかかる。通常の方法よりも難しいので、習熟が必要」と指摘します。ワイヤを使う場合より、胃に穴を開けたりする危険が高いからです。

胃がんの病理検査
早期胃がんは治る病気ですが、切除後の組織の病理診断で、治療前の予想より進行していたことがわかれば、改めて手術が必要になります。がんにワイヤを入れて分割して切除する方法では、組織が崩れてこの判定が難しくなります。これに対し、一括切除をすると、病理検査によりがんの広がりを正確に調べることができ、診断上も利点があります。

関係医療機関 国立がんセンター中央病院


メラノーマ(皮膚がん)のダーモスコープ検査


皮膚がんの一種、悪性黒色腫「メラノーマ」
ほくろが気になり、受診した皮膚科で「早めに取った方がいい」と言われたのに、別の皮膚科では「心配ありません」。そんな経験のある人は、意外に多いのではないでしょうか。

ほくろは皮膚に色素が集まったもので、通常は心配ありませんが、ごく一部に、がんの可能性があります。短期間で色や形が変わったり、大きさが5ミリ以上になったりした場合は、注意が必要です。

メラノーマは、腫瘍の厚さが1.5ミリ以下で、転移がない早期の場合、手術でほとんどが完治します。しかし、不用意に切除するなど外的な刺激で細胞がばらばらになりやすく、傷つけると転移が促されると考えられています。

このため、胃、大腸がんの検査のような、組織の一部を採って顕微鏡で調べる検査はあまり行われません。
従来、医師が肉眼や虫めがねで観察して、がん化した「悪性」か、「良性」かを見分けていました。

しかし、これだけでは正確な診断は難しいです。そこで登場したのが医療用拡大鏡「ダーモスコープ」です。

メラノーマのダーモスコープ検査
小ぶりな懐中電灯くらいの大きさで、先端の円形レンズ部を肌に密着させると、ほくろを10倍に拡大して見ることができます。レンズ部に組み込まれた電球で明るい視野を得て、中央に映る目盛りでほくろの直径を測ります。肌には超音波検査などで使われるゼリーを塗り、レンズ内の光の乱反射を抑えます。数10倍の拡大機能を備えた製品もあり、いずれも検査中の痛みはありません。

ダーモスコープの登場で、手のひらや足の裏のほくろの検査精度が格段に上がりました。足の裏などに数多く刻まれた「皮溝」(ひこう)と呼ばれる細い筋と、皮溝と皮溝の間で丘のように高くなった「皮丘」(ひきゅう)の観察が、診断に役立つことが分かったためです。

国立がんセンター中央病院、皮膚科医長の山本明史さんは「良性のほくろは、主に皮溝の部分だけに黒い色素が見られるが、メラノーマでは逆に、主に皮丘部に黒い色素が見られる」と話しています。

日本人のメラノーマの約三割は足の裏にできるため、この装置の意義は大きいのです。皮溝がはっきりしない肩や背中などでも、肉眼ではとらえきれないメラノーマ特有の色や形の変化が判別できます。

ところが、この検査はあまり普及していません。「装置の元祖」であるドイツ製品の販売会社によると、全国に約一万五千か所の皮膚科がありますが、販売台数は700台に過ぎません。検査に保険点数が加算されないことなどが原因です。

しかし、ダーモスコープはほくろの診察に欠かせません。受診する際は、事前にこの装憧の有無を確認するといいです。

日本皮膚科学会では、ホームページで皮膚科専門医の名簿を掲載しています。指導的な専門医がいる「教育研修施設」約570の病院名を知ることもでき、ダーモスコープ導入の有無を問い合わせる手がかりになります。

関連医療機関 国立がんセンター中央病院

関連サイト 日本皮膚科学会


頭頸部進行がんへの超選択的抗がん剤動注と放射線の併用療法


頭頸部進行がんの治療
顔、のどなど「頭頸部」(とうけいぷ)の進行がんの手術は、たとえがんは取り切れたとしても、会話や食事
がしにくくなったり、容ぼうが大きく損なわれたり、患者の心身への影響が大きいです。代わりに、大量の抗がん剤を患部に集中的に注入するとともに、放射線を併用する治療があります。

治療では、足の付け根の動脈から入れた細い管を、がんの部位まで、エックス線で血管を透視しながら通す。がんに栄養を運んでいる細かな血管を探し出し、そこにシスプラチンという抗がん剤を注人し、がんをたたきます。

超選択的抗がん剤動注と放射線の併用療法
しかし、この薬では腎障害、吐き気といった副作用が起きやすいです。そこで、抗がん剤の注入と同時に、鎖骨の下から太い静脈に入れた別の管から、抗がん剤を中和する薬(チオ硫酸ナトリウム)を注射します。これによって、抗がん剤はがんの部位に流れた後、全身に循環する前には中和され、副作用を最小限に抑えることができます。

この治療は、がんの部位だけを選んで抗がん剤を注入することから「超選択的動注療法」と呼ばれ、米テネシー大で1990年代初めに開発されました。

抗がん剤を静脈に注射する従来の治療は、副作用のため3-4週の間隔を空けて行う必要がありますが、この方法では毎週、しかも2倍量の抗がん剤を投与でき、高い効果が期待できます。

基本的な治療期問は7週間で、抗がん剤を週1回、計4回、並行して放射線を週4回(1回2.5グレイ)、計65グレイ照射します。

北大病院耳鼻咽喉科の本間明宏さんは1999年にこの方法を導入し、これまでに副鼻腔(びくう)、咽頭、口腔(こうくう)がんなど、最も進行した四期の患者を中心に約90人を治療しました。

通常の抗がん剤と放射線の併用療法では、3割の人が副作用のため治療を中断せざるを得ないのに比べ、9割以上の患者が治療を完了しました。7割以上の患者に、がんが消える効果がみられ、3年後の生存率は5割を超え、従来にはみられなかった効果と言えます。

本間さんは「手術できず、ほかに手立てがなかった進行がん患者さんにとって、有力な選択肢となりうる」と話します。

ただ、腎障害など全身的な副作用は少ないとはいえ、視神経などが集中する部位に大量の抗がん剤を注入することから、視力の低下や顔面などの神経まひ、副鼻腔炎などが起きやすいです。血管に管を通す際の危険性もあり、北大では専門の放射線科医の協力で治療を行っています。

最大の問題は、世界的にも10年余の経験しかなく、長期的な安全性が不明な点です。北大でも、治療後に下あごが壊死した重大な副作用の例がありました。本間さんは「治療の対象は慎重に選ぶ必要がある」と強調します。

頭頸部進行がんへの超選択的抗がん剤動注と放射線の併用療法は、大学病院などで広がりつつあるものの、抗がん剤の種類や投与方法などは施設によって異なります。十分に説明を受けて選択してください。

「頭頸部」(とうけいぷ)がん治療の現状
「頭頸部」(とうけいぷ)がんは、上あごや舌、耳下腺、のどの咽頭、喉頭など、顔から首にかけてできるがんで、年間の死亡者は約6600人です。がんの切除に伴う、機能や外見の欠損を補うため、しばしば体のほかの部分からの組織移植などにより再建も行われます。手術用顕微鏡などを使う細かい手術も必要で、難度が高いです。

「頭頸科」を掲げるのはごく一部で、大多数の医療機関では、耳鼻咽喉科が担当します。舌や口の中のがんでは歯科口腔外科、さらには形成外科が治療に当たる医療機関もあります。

機能を温存するには、切らずに治す放射線治療が威力を発揮しまうす。上咽頭、中咽頭がんは放射線治療が主流であり、舌がんでも放射線の小さな針を埋め込む小線源治療で舌を切らずにすむ場合があります。

関係医療機関 北大病院耳鼻咽喉科


脳腫瘍(しゅよう)の「覚醒手術」



脳腫瘍の手術
脳腫瘍は、異常な細胞が脳内で増殖する病気です。治療には腫瘍をできる限り多く切除することが必要ですが、腫瘍の位置によっては摘出の際に脳組織を傷つけ、体のマヒや失語症などが残る恐れもあります。

「腫瘍を多く切除しつつ、後遺症を防ぐ」この二律背反の難題を解決したのが、「覚醒手術」です。

覚醒手術
手術台に横たわる患者に、医師がパソコン画面の単語や絵を見せ、「この三つの単語をつなげて文章を作って下さい」と話しかけます。

「かべに ペンキを ぬる」と答える患者、医師は「大丈夫そうですね。言葉のもつれなど違和感はありませんか」と問いかけを続けます。

患者は、頭の骨の一部を外され、脳がむき出しの状態ですが、意識は鮮明です。執刀医は患者の受け答えの様子を見ながら、脳腫瘍を電気メスなどで慎重に摘出していきます。
その間にも、患者とやり取りする「反応テスト」を担当する医師が頻繁に声をかけ、氏名や住所、趣味なども尋ねます。手を握ったり開いたりさせ、まばたきや舌の動きも見ます。


手術中は、医師が病変付近を電気や器具で刺激します。会話が途切れる、物の名前を言えない、顔が引きつるなどの異常な反応が出たら、その付近の腫瘍はそれ以上取りません。東京女子医大脳神経外科教授の堀智勝さんは「従来の手術に比べ、安全で効果の高い治療ができます」と話します。

脳を包む硬膜は刺激で痛みを感じますが、脳組織自体は痛みを感じません。そこで、まず全身麻酔で頭の骨を切開する「開頭」を行ってから、麻酔を中断して意識を回復させます。
この間に反応テストをしながら腫瘍を摘出し、再び全身麻酔をかけて頭部を閉じます。約10年前、効きも目覚めも早い麻酔薬が登場して、実施されるようになりました。

従来の手術では、腫瘍全体の7割程度を取れれば成功とされてきましたが、同大でこれまでに手術した約60人の患者では、平均で約95%の量の腫瘍を摘出できました。良性の脳腫瘍の場合、4年後の生存率は100%と、通常の手術に比べ2、3割高いです。3割程度の患者に一時的な言語障害やマヒが見られますが、数か月以内にほぼ消えると言います。

この手術は脳腫瘍のほか、脳血管にこぶができる海綿状血管腫、突然意識を失うてんかんなどにも実施されます。

ただ、脳の部位と働きには個人差が大きいです。そこで、言葉を発したり運動したりする際、脳のどの部分が働くかを調べるため、覚醒手術に先立ち、測定用電極を埋め込む手術を行う場合が多いです。

さらに、覚醒手術中に脳のMRI画像も撮影するため、手術時間が9時間程度と、従来の2倍近いです。患者には体力と忍耐も必要で、東京女子医大は15~65歳の患者に行っています。

保険がききますが、反応テストなどにスタッフも数多く必要なため、一部の大学病院でしか実施されていません。

関係医療機関 東京女子医大脳神経外科

関連ページ 手術による「てんかん」治療


骨肉腫の「抗がん剤とカフエインの併用治療」



骨肉腫の治療法
骨肉腫は、思春期の子供に多い病気で、大腿骨や上腕骨にできやすいです。腫瘍によって内部が破壊された骨は、切除しなくてはなりません。

1970年代までの治療では、腫瘍ができた手足の切断が主流で、5年生存率も10-20%と低かったです。1980年代以降は、抗がん剤で腫瘍を小さくしてから手術することで、手足の切断処置を回避することを目指しました。こうした手足の温存手術は骨肉腫手術の9割を超え、肺、肝臓などへの転移がない場合、5年生存率も60%程度に上昇しました。

しかし抗がん剤だけで、腫瘍を死滅させることは難しいです。
そこで、抗がん剤の効き目を強くするため、金沢大整形外科助教授の土屋弘行(つちやひろゆき)さんは、意外な物質に着目しました。それは、コーヒーなどに含まれるカフェインです。「カフェインは紫外線や放射線による細胞障害を進行させる」との報告を読んだことがヒントになりました。

抗がん剤とカフエインの併用治療
抗がん剤でDNAを傷つけられたがん細胞は、次の細胞分裂までの周期を延ばすことでDNAを修復し、生き延びようとします。ところが、そこにカフェインを投与すると、がん細胞は修復までの十分な時間を確保できず傷ついたまま分裂して、死ぬことを動物実験などで確認しました。

そのうえで、土屋さんらは1989年、骨肉腫の患者に抗がん剤とカフェインの併用療法を開始しました。血液中に抗がん剤2種類(シスプラチンとアドリアマイシン)を4時間注入した後、カフェインを3日間、点滴注射します。患者の体力を見ながら、この併用治療を手術前に5回、手術後に6回繰り返すのが標準的な方法です。

カフェインの量は1日2-3グラム。コーヒー30杯分程度と量は多いですが、不眠や吐き気などの副作用は血中濃度の調整や鎮静剤で抑えます。

これまで60人に併用療法を行い、他臓器に転移がない36人中30人は、手術前に腫瘍が消えました。従来の成績と単純には比較できないものの、5年生存率は93%と高いです。一方、転移が起きた場合の生存率は従来同様に低く、今後の課題となっています。

併用療法は、切除範囲を従来より小さくできます。関節や周りの筋肉、神経などを残し、切除した部分に別の骨を移植して再建することで、運動機能回復も容易になった。

土屋さんは「手足の機能が回復する意義は大きいです。ただし、カフェインはあくまで抗がん剤の補助剤で、コーヒーを多く飲んでも効果は期待できません」と説明します。

同大の併用療法は2003年から、検査など治療本体以外の部分に保険がきく高度先進医療に指定されました。カフェインは安く、患者の自己負担は3日分で9500円程度です。同大以外にも骨肉腫などに併用療法は広まりつつあります。米国では、悪性黒色腫、脳腫瘍、すい臓がんの治療などにも応用されています。

カフェインの効果
コーヒーやお茶に含まれる成分として、だれでも知っているカフェインの意外な効果に驚かされます。安価で、副作用をあまり心配する必要がないのが長所です。がん細胞の修復を阻害するという機能からすれば、どんながんに対しても、抗がん剤の効果を増強する働きがカフェインにはあるかもしれません。

日本では、まだ骨肉腫などの治療に限定されていますが、さらに広がる可能性もあります。ただし、コーヒーや茶の大量飲用で、同じ効果が得られるわけではありません。

関係医療機関 金沢大整形外科


膀胱がん体内に膀胱再建



膀胱がんによる全摘手術
膀胱がんは、がんが膀胱の内側の表面にとどまっていれば、尿道から管を通し、がんを削り取る方法で治療できます。膀胱を取らずに済み、再発しても治療を繰り返すことが可能です。

しかし、がんが粘膜より深く筋肉の層まで進んだ場合などでは、手術で膀胱をそっくり取る全摘手術が必要になります。この場合、手術後の排尿をどうスムーズにするかが、大きな問題になります。

膀胱再建手術
膀胱全摘後の排尿には、人工の排尿口(ストーマ)をおなかに開けて体外の袋に尿をためる方法と、代用の膀胱を腹部の中に作る方法(膀胱再建)があります。それぞれはさらに、次の①②と、③④の手術
法に分かれます。

①腎臓から伸びた尿管の先を、腹部に穴を開けたストーマまで導き、外につけた袋に尿をためる。

②切除した小腸(回腸)の一部を管として用い、腎臓から伸びた尿管をっないで、腹部に開けたストーマのに尿をためる。

③腸管の一部を使い、尿をためる袋を作る。がんが広がり尿道を残せない場合に行う手術で、おへそに開けた穴に外から管を差し込んで排尿する。

④腸管の一部を用いて3と同様に尿をためる袋(新膀胱)を作る。新膀胱に尿道をっなぎ、腹圧で押すようにして排尿する。尿道までがんが及んでおらず、尿道を残せた場合に実施できる。

最も自然に近い形で排尿できるのが④の方法です。

静岡県立静岡がんセンター院長の鳶巣賢一(とびすけんいち)さん(泌尿器科)によりますと、最も多く行われているのは②で、全体の5-6割になります。次いで①の方法が2割程度です。手術時間が短くて済む反面、ストーマを作って体外の袋に尿をためなければなりません。

一方、④の新膀胱を作っている患者は10-15%ほどに過ぎず、手術が複雑な③はほんの数%ではないかといわれてます。

「全摘患者の半数程度では、新膀胱で自然に近い排尿を目指すことができるはず」と鳶巣さんはみています。実施例が少ないのは、「この手術に熟練した医師が少ないためではないか」と言います。

ただ、新膀胱では長期間使っていると、通常の膀胱(500ミリ・リツトル程度)の倍以上に大きくなってしまう問題があります。自分では排尿したつもりでも残尿を大量にため込み、腎機能障害を招く心配があります。体液のミネラルバランスが崩れ、骨が弱くなる場合もあります。定期的に診察を受け、残尿がないかを確認することが必要になります。

手術で膀胱を取ることになったとしても、できるだけ自然に近い排尿ができるのに越したことはありません。手術後の排尿方法も含めて、主治医以外の医師の意見(セカンドオピニオン)も聞いてみてください。

注意)セカンド・オピニオンとは、よりよい決断をするために、当事者以外の、専門的な知識を持った第三者に、求めた「意見」の事です。


膀胱がんの標準的な治療
膀胱がんは血尿をきっかけに見つかることが多く、60-70歳代を中心に、男性が女性の3倍です。患者の6-7割は、がんが膀胱の内側の粘膜にとどまり、尿道から細長い電気メスを膀胱内に挿入して、がんを削り取る「経尿道的切除」が行われます。

治療後に、BCGや抗がん剤を膀胱内に注入する方法も併用されるが、再発しやすく、経尿道的切除を何度も繰り返すこともあります。
抗がん剤は比較的よく効き、手術不能な場合には4種類の抗がん剤を併用するMVAC(エムバック)療法が行われます。

関連医療機関 静岡県立静岡がんセンター


膀胱がんの動注化学・放射線治療併用による膀胱温存療法



膀胱がんと治療法
膀胱がんは膀胱の内側の上皮(粘膜)に発生するがんで、表在性膀胱がんと浸潤性膀胱がんの二つに大きく分けられます。進行するに従って外側へ向かって膀胱壁(粘膜・粘膜下層・筋層)の中に深く浸潤していきます。がんの浸潤が粘膜下層にまでとどまっているのが表在性膀胱がんで、筋層まで届き、それ以上に広がっているのが浸潤性膀胱がんです

膀胱がんの予後は、表在性膀胱がんと浸潤性膀胱がんではまったく異なります。前者の5年生存率は90パーセント以上と非常に高いのに、後者は40パーセント以下と半分にも満たないです。

加えて、表在性膀胱がんは尿道から膀胱鏡を膀胱へ挿入し、電気メスで腫瘍を切除する手術の経尿道的膀胱腫瘍切除術(=TUR-Bt)によって治癒し、膀胱を全摘することはありませんが、浸潤性膀胱がんは開腹手術で膀胱を全摘しなければなりません。膀胱をとられたうえに治癒も難しいというのが浸潤性膀胱がんで、患者さんにとっては二重の苦しみを負うため、この苦しみをなくす新たな治療法が切実に求められてきました。

もちろん、近年の尿路変更術の進歩によって、膀胱を全摘した患者の排尿に関するQOL(生活の質)はかなり改善したものの、体に備わった膀胱を失うという事実は変わりません。

そこで今、筑波大学付属病院で試みられている動注化学・放射線治療による膀胱温存療法は、本来の膀胱・排尿機能を残しながら治癒も得たいという患者の声に応えた、画期的治療法といえるでしょう。


膀胱温存療法の適応対象者
浸潤性膀胱がんは進行の程度によって、T2、T3、T4の3種類に大きく分けられます。少し専門的になりますが、T2はがんの浸潤が筋層にとどまるもので、T3は膀胱の周囲の脂肪組織へ浸潤しているもの、さらにT4は前立腺・子宮や骨盤壁など隣接臓器へ浸潤しているものです。

このうち膀胱温存療法の対象となるのはT2、T3の、リンパ節転移や遠隔臓器転移の認められない浸潤性膀胱がんです。浸潤の程度やリンパ節転移の有無などは、生検やCT、MRI等の画像検査で確かめます。

注意すべきはT2、T3の浸潤性膀胱がんのすべてが膀胱温存療法の対象となるわけではないことです。腫瘍の数や大きさなどをはじめ、経尿道的膀胱腫瘍切除術(=TUR-Bt)で切除した患部の組織から、がんの悪性度などを見るなど総合的に判断し、最終的に膀胱温存療法の対象となるか否かを決定します。

浸潤性膀胱がんは腫瘍の数が1個、すなわち単発のケースが多いようで、腫瘍の数が増えるほど、また腫瘍のサイズが大きいほど再発の危険性は高くなります。いままでの経験と研究から、膀胱内の再発の危険性は腫瘍の数が2個以上のときは単発のときより約43倍、腫瘍の大きさが3センチ以上のときは3センチ未満のときより約6倍高まることが明らかにされています。

そうしたリスクファクターなどを勘案し、膀胱温存療法を行っても再発の恐れが少ない浸潤性膀胱がんを対象に膀胱温存療法を行っているのです。


動注化学・放射線治療併用による膀胱温存療法
動注化学・放射線治療併用による膀胱温存療法は、

1.経尿道的腫瘍切除術(TUR-Bt)
2.抗がん剤の動注化学療法+放射線治療
3.陽子線治療

の3段階の治療ステップで進みます。

最初のステップは膀胱鏡を尿道から膀胱へ挿し入れ、がん病巣を電気メスで切除します。肉眼で確認できた腫瘍はすべて切除できることもありますが、腫瘍を切除できず残してしまうこともあります。

2番目のステップは動注化学療法と放射線治療を同時併用する治療で、まず細い管(カテーテル)を太股の大腿動脈から挿入し内腸骨動脈まで進入させ、抗がん剤(メソトレキセート+シスプラチン)を投与します。これが動注化学療法です。

直接、腫瘍に高濃度の抗がん剤を投与するため、がんに対する殺傷力が増強します。しかも、全身に潜んでいるかもしれない、目に見えない小さながんの転移も十分に叩ける濃度と量(体表面積1平方メートルあたりメソトレキセート30ミリグラム、シスプラチン50ミリグラム)の抗がん剤を投与しますが、静脈から点滴投与する通常の方法と比べ副作用は軽くすみます。

動注化学療法は3週間ごとに3回行います。

放射線治療は、第1回目の動注化学療法の翌日から1回=1.8グレイを、膀胱の存在する骨盤の奥(小骨盤腔)に照射します。通常の体外照射で週5回、計23回=41.4グレイを当てます。

動注化学・放射線治療が終わった段階で、がんが存在したところの組織を膀胱鏡で取り、顕微鏡でがん細胞の有無を確かめます。がん細胞のないことが確認されたら次のステップの陽子線治療に進みますが、がん細胞が確認されたときは手術による膀胱全摘に切り替えます。

アメリカ等の研究では、浸潤性膀胱がん(T2、T3)の30パーセント前後は、静脈投与の抗がん剤治療のみで消失することが判明しています。

しかし、動注化学療法に放射線を加えると、腫瘍の消失率が90パーセント程度へ飛躍的に高まります。実際、筑波大学の動注化学・放射線治療では、93パーセントの浸潤性膀胱がんが消失し、ほとんどの患者が次のステップの陽子線治療に進んでいます。

陽子線治療
第3段階の陽子線治療は、腫瘍が存在したところに追加照射(ブースト)します。膀胱がんの再発防止をより確実なものにするためで、あらかじめ患部の周辺にマーカーとなる金属粒子を膀胱鏡で埋めこみ、照射範囲を厳密に絞りこんで陽子線を照射します。

もともと陽子線は人体の中でその破壊エネルギーがもっとも大きくなるピーク(ブラッグピーク)の位置を調節できるため、患部のみに放射線を集中的に照射し、その周りの正常組織への放射線障害を極力減らせるところに大きな特長があります。1回3グレイ相当を週5回、計11回=33グレイ相当を当てます。

膀胱温存療法はすべて完了するのに約3カ月間を要します。膀胱を全摘する手術の入院期間は2~3週間なので、その約4倍の入院期間を必要とすりますが、それに十分見合う生活の質(QOL)が保障されます。


(注意)陽子線治療の設備は、筑波を含んで全国で10箇所ほどしかありませんので、ほとんどの病院では陽子線治療はできません。

また陽子線治療は高度先進医療のため、治療費は全額患者さんの負担になります。費用はだいたい200万円以上になります。

関係医療機関

筑波大学付属病院

四国がんセンター

北海道大学付属病院


がんの放射線治療「サイバーナイフ」



放射線治療「サイバーナイフ」
神経や血管、組織が密集している頭や顔、首(頭頸部:とうけいぶ)の手術は、できるだけ避けたいものです。患者には、手術に耐えるだけの体力がない高齢者らも多いです。その点、メスを使わない放射線治療なら患者の体の負担が少ないです。ただし、通常の放射線は照射範囲が広く、微細な部位には使えないです。そこで、精密に照射できる最新鋭器「サイバーナイフ」が、放射線治療の新たな可能性を広げています。

サイバーナイフの仕組みはこうです。あらかじめ作成した画像に2方向から撮影したエックス線画像を重ね合わせて病巣を正確にとらえます。これを基に、6か所の関節を持つクレーンのようなロボットアームが、患者の体の微妙な動きに即応して位置を自在に変えながら、アーム先端の小型リニアック(直線加速器)から放射線を照射します。

リニアックは患者の頭頸部の周囲100か所のポイントから各12方向に照射します。最大1200本の放射線を病巣の形状に合わせて、方向と強さを変えて照射し、体が大きく動くと中断して誤射を防ぎます。

サイバーナイフは1992年、アメリカで開発されました。ロボットアームの動きは、巡航ミサイルが動く標的を追跡して撃ち落とす軍事技術が応用されており、照射の誤差は1ミリ以内と精度が高いです。メスのような鋭い切れ味の「電脳ナイフ」が名前の由来です。

従来、脳神経外科の放射線治療には、ガンマ線を照射する「ガンマナイフ」が多用されてきました。サイバーナイフと比較しても効果に違いはありませんが、ガンマナイフは重い金属フレームを患者の頭がい骨にねじで固定するため、痛みが多少あります。治療できるのは基本的に頭がい骨内にある3センチ以下の病巣に限られています。

これに対しサイバーナイフは、メッシュ状の固定用マスクをはめるだけです。何日にも分けて広い範囲に照射し、大きな病巣も治療できます。「針の穴に糸を通す」精度で、ガンマナイフでは治療できない頭がい底や頸部、脊髄(せきずい)の周辺、眼球と眼球の間など、頭がい骨の外にある病巣でも治療できます。

サイバーナイフの治療対象
頭頸部腫瘍のほか、くも膜下出血を引き起こす動静脈奇形や三叉(さんさ)神経痛なども治療できます。

治療は麻酔をせずに約1時間で、照射後に吐き気、発熱などが起こることがありますが、数日で治まります。叉神経痛などを除く、多くの疾患で健康保険が使え、治療費の自已負担は通常、3割となります。


関東脳神経外科病院サイバーナイフセンター長の井上洋(いのうえひろし)さん(群馬県藤岡市・神経機構研究所長)は「放射線を病巣に集中させるピンポイントの照射ができるので、頭頸部に最適ですが、今後、肺がんや乳がんなどにも広がるでしょう」と話しています。

ただサイバーナイフ装置は1台数億円と高価で、目下、全国で14施設にあるのみです。

ガンマナイフ
ガンマナイフは1968年、スウェーデンで開発された放射線治療装置です。

国内には1990年に初めて導入された。コバルト60を放射線源にして、頭部を覆うヘルメット型コリメーターの201個の穴からガンマ線を放射します。虫眼鏡で光を一点に集中する要領で、病巣を焼き切ります。

主な設置施設は日本ガンマナイフサポート協会のホームページで分かります。



関係医療機関 

関東脳神経外科病院(埼玉県)

脳神経外科聖麗メモリアル病院

おか脳神経外科病院(東京都)

新緑会脳神経外科病院(神奈川県)

津島市民病院(愛知県)

蘇生会総合病院(京都府)

大阪大学病院(大阪府)

岡山旭東病院(岡山県)

厚南セントヒル病院(山口県)

済生会今治病院(愛媛県)

共愛会 戸畑診療所(福岡県)

九州大学病院(福岡県)

大分岡病院(大分県)

熊本放射線外科病院(熊本県)

藤元早鈴病院(宮崎県)

関連ページ 

三叉神経痛のガンマナイフ治療



PETによるがん検査の信頼性



PETによるがん発見率
小さながんでも発見率が高いと言われ、約100か所の医療機関に導入されているのが、画像診断装置PET(陽電子放射断層撮影)です。多くの施設でがん検診にも使われていますが、国立がんセンター(東京)の研究で、がんの85%が検出できなかったことが分かりました。「PETで異常がないからといって安心するのは危険」と、専門家は指摘しています。

PETは、放射性物質とブドウ糖を含んだ薬剤を静脈注射し、これが発する放射線を特殊なカメラで映像化する診断法です。がんは糖を取り込む性質があるため、がんのある場所が鮮明に映し出されます。

薬剤を注射して1時間ほど安静にした後、約1時間かけて全身を撮影します。放射線被ばくは多少ありますが、「全身のがんを一度に見つけることができる」と言われ、急速に広まりました。

元々はがんと診断された人の転移や再発を、調べるために使われており、保険も適用されています。健康な人のがん検診には保険がききませんが、十数年前から検診にも自費診療で使われるようになりました。

しかし、PETを検診に使っているのは、日本のほか韓国、台湾ぐらいです。欧米では、がん検診への有効性が示されておらず、実施されていません。

国立がんセンターに設置された「がん予防・検診研究センター」では、昨年1月までの1年間に、超音波、CT、PETなどを併用した検診を受けた約3000人のうち、約150人にがんが見つかりましたが、PETでがんがあると判定された人は23人(15%)に過ぎませんでした。

従来、組織に水分が多く糖が取り込まれにくい膀胱(ぼうこう)、腎臓、前立腺、胃などのがんは、PETでは見つかりにくいとされてきました。日本核医学会が2004年にまとめたPETがん検診の指針でも、がんの検出に「非常に有効」とされたのは、甲状腺や顔、首などにできる頭頸(とうけい)部がんと悪性リンパ腫(しゅ)の2種類しかありません。

ところが、この指針で「有効性が高い可能性がある」とされている肺がん、大腸がんのPET検診にも、国立がんセンターの調査では、効果に疑問を投げかけるデータが出ました。大腸がんが発見された人のうち、PET検査でがんが分かった人は13%、肺がんでも21%にとどまりました。

独協医大教授(PETセンター長)の村上康二さんは「多種類のがんを楽に見つけるPETの利点を生かすため、より効果を高める薬剤や装置の研究開発が必要」と話しています。

がんの検査
現時点では、どんな検査を受ければよいのか。厚生労働省研究班の調査では、がんの死亡率を減らす効果があるとされる検診は

●乳がんのエックス線検査(マンモグラフィー)
●大腸がんの便検査
●子宮頸がんの細胞診
●胃がんのバリウム検査
●肝がんの肝炎ウイルス検査

などがあります。

このほかにも、肺がんの場合、「高速らせんCT」と呼ばれる高性能CTで、早期がんの発見率が高まったとの報告があります。さらに卵巣がんに超音波検査、乳がんには超音波と視触診の併用検査、前立腺がんにPSA(前立腺特異抗原)と呼ばれる血液マーカー検査などが行われています。

しかし、これらの検査は、がんの発見率こそ高いものの、死亡率の減少につながるとまでのデータはありません。小さながんが発見されても、すぐに命にかかわるものは多くないからです。

PETの場合、がん治療後の転移がんの発見には効果があるとされ、有効な利用法について、さらに研究が必要になります。

関係医療機関

国立がんセンター(東京)


骨への転移がん進行を抑制する「ビスフォスフォネート製剤」



骨への転移がん
骨に転移したがんは、骨をもろくし、痛みや、骨折を引き起こします。脊椎(せきつい)に転移したがんが、脊髄の神経を圧迫し、まひが起こることもあります。

厚生労働省研究班(班長・荒木信人大阪府立成人病センター整形外科部長)の推計では、骨転移に苦しむ患者さんは、年間6~9万人います。乳がんや肺がん、前立腺がんが骨に転移しやすいです。

治療は、薬や手術、放射線を組み合わせます。肺がんなどは、抗がん剤で全身のがんの増殖を抑えるのが、標準的な治療です。乳がんや前立腺がんは、ホルモン療法も行います。

痛みに対しては、モルヒネなどの鎮痛薬を使ったり、放射線治療が行われたりします。1回から数回に分け患部を照射、7、8割の患者で痛みが改善されるといいます。また、まひや骨折の予防も放射線治療の役割です。

ビスフォスフォネート製剤の「ゾレドロネート(商品名ゾメタ)」
これらに最近、加わったのが、骨のがんの進行を抑制する点滴薬、ビスフォスフォネート製剤です。抗がん剤やホルモン剤のようにがんに働きかけるのではなく、がんが骨で増殖しにくい環境を作ります。飲み薬は骨粗しょう症治療薬として使われています。

2004年に乳がんの骨転移治療薬、2006年4月には、血液がん以外のすべてのがんの骨転移などに、ビスフォスフォネート製剤の「ゾレドロネート(商品名ゾメタ)」が承認されました。ゾレドロネートの点滴は、15分ですみます。

正常な骨は、古い骨を溶かして壊す破骨(はこつ)細胞と、骨を作る骨芽(こつが)細胞がバランス良く働き、新陳代謝を繰り返します。しかし、骨に転移したがんは、そのバランスを崩します。

肺がんや腎臓がんからの転移は、破骨細胞の働きが活性化され、骨が溶け出しスカスカになります。一方、前立腺がんは、骨芽細胞の働きが高まり、異常に骨が作られ、折れやすくなります。乳がんからの転移は両タイプが見られる。

ビスフォスフォネート製剤は、破骨細胞の働きを抑制して骨が溶け出すのを止め、骨芽細胞の働きも正常に戻していくとされます。

「ゾレドロネート(商品名ゾメタ)」の効果
国内の骨転移がある乳がん患者約230人を対象にした比較試験では、ゾメタを1年間投与したグループでその間、痛みがあった患者はほぼ全員で痛みが軽減しました。また、3割が骨折やマヒなど合併症を起こしましたが、投与しなかったグループは5割で発生しました。薬によっては、2割の患者が重い合併症を免れたことになります。

原因不明の副作用として、1万人に7人の比率で、あごの骨の壊死(えし)が報告されています。抜歯後に起こりやすく、その時期は使用を控えてください。

癌研有明病院(東京)癌化学療法センター臨床部副部長の高橋俊二さんは、「痛みや骨折は、著しく生活を妨げます。比較的安全に使える薬なので、症状が出る前から薬を使うことで、1日でも長く普通の生活を過ごせる可能性が高まります」と話しています。


関連医療機関

癌研有明病院(東京)癌化学療法センター

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