複雑骨折の脚延長術「イリザロフ法」
従来の骨折治療
骨が折れたら、ギプスやネジ、ワイヤなどで外側あるいは内側から、患部をくっつくように固定するのが通常のやり方です。骨が欠損した場合は、別の骨を移植します。イリザロフ法は、こうした従来の常識とはまったく違う発想から生まれた治療です。
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骨を再生させる「イリザロフ法」
患部を固定しつつも少しずつ引っ張ります。すると骨が徐々に再生されて伸び、血管や筋肉、神経など周りの軟部組織も形成されます。開発は意外に古く、ロシア・西シベリアのG・イリザロフ医師(故人)が1951年から治療に使い始めました。当初は効果が疑問視され、長らく埋もれていましたが、イリザロフ医師がスポーツ選手の治療などで積み重ねた実績が、欧米の整形外科医らに伝わり、80年代以降、世界的に広まりました。
1990年からイリザロフ法の専門外来を開設している帝京大病院の整形外科教授、松下隆さんは「これまで一番骨が伸びた例は33センチ。軟部組織の再生には限界があるが、骨だけなら無制限に伸ばせるのではないか」と話しています。
イリザ□フ法の治療
対象となるのは、外傷や骨のがん、骨髄炎などで骨を切除した患者です。伸ばしたい部位の骨を切断し、細いワイヤをかけて「創外固定器」という、金属製リングをいくつも連緒した外枠につなぐます。伸ばしたい方向に力を加えて1日1ミリほどのペースで引っ張り続けると、切断面に骨の組織が徐々に形成されます。エックス線写真で、骨の形成スピードを見ながら固定器を調節します。
最適な長さになったら、つなぎたい骨とドッキングさせる手術を行います。骨が固まるまで、伸ばした期間と同じくらいの日数をかけて固定します。
固定器の取り付け方次第では、複雑な変形を矯正することも可能です。高齢者でも時間はかかりますが再生できます。先天性小人症(四肢短縮型)患者の手足を伸ばす治療にも応用しています。ただ、がんの放射線治療を受けた患者や骨の代謝障害の場合は、この治療には不向きで再生しにくいです。
イリザロフ法のメカニズム
骨折が治る時には、骨のもとになる細胞や骨形成を促進する物質が血流に乗って患部に集まり、柔らかい「仮骨」という「骨の前段階」を作ります。イリザロフ法は、折れた部分を少しずつ引き離すことで仮骨をどんどん作らせ、伸ばしていくとみられています。
金沢大助教授の土屋弘行さん(整形外科)は「小さな骨折をわざと繰り返し、骨を作る反応を持続させるようなもの」と説明しています。骨が伸びるメカニズムは未解明の部分が多く、国内でも専門医が1995年から「日本イリザロフ研究会」を作り、研究を進めています。
治療費は入院期問などによって異なりますが、固定器の装着手術が約30万円になります。「脚長調整術」として、健康保険が適用されます。
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関係医療機関
帝京大病院整形外科
金沢大病院整形外科
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