がん細胞だけを破壊する「ホウ素中性子捕捉療法」
ホウ素中性子捕捉療法のメカニズム
がん細胞だけの破壊を狙う「ホウ素中性子捕捉療法」という特殊な放射線治療が、京都大原子炉実験所(大阪府)などで研究されています。難治の脳腫瘍などで、従来より生存期間の延長が見込めると報告されました。同実験所は小型の中性子線照射装置も新たに開発して、臨床試験も予定しています。
同実験所教授の小野公二さんによりますと、ホウ素もエネルギーの低い中性子線も単独では細胞を破壊する力はありません。しかし、ホウ素は中性子を吸収すると、細胞を破壊する別の放射線を出します。この原理を用いたのが、この治療法です。
治療で用いるホウ素化合物は盛んに増殖しているがん細胞に取り込まれやすい反面、正常細胞に入る量は、その数十分の1~数分の1程度と少ないです。ホウ素化合物を点滴投与すると、がん細胞に多く集まり、中性子線を照射すると、周囲の正常組織を傷つけず、がん細胞だけを破壊できます。
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ホウ素中性子捕捉療法による難治性がん治療
同実験所と大阪医大脳神経外科は、脳腫瘍のなかでも治療が難しいとされる膠芽腫(こうがしゅ)を対象に、2007年までに臨床試験を行いました。膠芽腫は、がんと正常組織の境界が不明瞭で、周囲にしみこむように広がるため、手術で完全に取り切るのはほぼ不可能とされています。
試験結果は、手術後、ホウ素中性子捕捉療法を行い、エックス線治療も加えた11人では、生存期間の中央値が23.5か月でした。標準治療(手術後にエックス線と抗がん剤治療)で報告されている約14か月を上回りました。しかし、「症例が少なく、今後も臨床試験を重ねる必要があります」と小野さんは話しています。
再発した頭頸部がん、治療が難しい皮膚がんの悪性黒色腫のほか、今後、アスベストが原因で起こる悪性胸膜中皮腫、多発肝臓がんなどへの適用も考えています。ただし、中性子が体の深い部分まで届きにくいという弱点もあり、照射方法の工夫や、がん細胞だけにより多くしみこむホウ素化合物の開発が課題になります。
ホウ素中性子捕捉療法の臨床試験
また、これまで中性子の発生には原子炉が用いられてきました。国内の照射施設は、同実験所と日本原子力研究開発機構・東海研究開発センターの2か所でしたが、施設管理のため長期間使えないこともありました。このため、同実験所などは、原子炉を用いない小型の中性子照射装置を開発しました。患者への臨床試験も行います。
ホウ素は中性子照射の半日から数時間前に点滴し、照射は1回のみです。臨床試験なので、治療費は研究費が充てられます。
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臨床試験を行っている医療機関
- OPC(オリゴメトリック・プロアントシアニジン)
- αーリポ酸
- コエンザイムQ10
- セレン
- ビタミンA(β-カロテン、レチノール)
- ビタミンC
- ビタミンE
- マリアアザミ
- カバノアナタケ
- 食物繊維
- スプラウト
- マイタケ
- ローヤルゼリー
- イソフラボン(大豆イソフラボン)
- 葉酸
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