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-制御性T細胞の解説・未来への展望-

制御性T細胞の解説・未来への展望

はじめに ― ノーベル賞と制御性T細胞

2025年のノーベル生理学・医学賞は、坂口志文(さかぐち しもん)教授ら3人の研究者に授与されました。
その中心となったのが、免疫の暴走を防ぐ「制御性T細胞(regulatory T cell:Treg)」の発見と、その分子機構(FOXP3遺伝子など)の解明です。

私たちの免疫は、本来「外敵(細菌・ウイルス・がん細胞)」を攻撃するための仕組みですが、 同時に自分自身を攻撃しないための“ブレーキ”も必要です。
そのブレーキ役の一つが制御性T細胞であり、

  • 自己免疫疾患を防ぐ
  • アレルギー反応をおさえる
  • 臓器移植後の拒絶反応を弱める
  • 一方で、がんでは免疫反応を弱めてしまうこともある

といった、非常に重要で「両刃の剣」のような役割を担っています。

制御性T細胞とは何か

制御性T細胞は、CD4陽性T細胞の一種で、 FOXP3という転写因子を発現し、免疫反応を抑える働きを持つ細胞です。

主な役割は次の通りです。

  • 「自己」と「非自己」の区別を誤ったT細胞を抑え、自己免疫疾患を防ぐ
  • 炎症反応が長引きすぎないようにして、慢性的な炎症ダメージを減らす
  • 食物・腸内細菌・花粉などに対する“寛容(トレランス)”を保つ

逆に、制御性T細胞がうまく働かないと、 自己免疫疾患・アレルギー・慢性炎症などさまざまな病気につながることがわかってきました。


1. 自己免疫疾患と制御性T細胞

自己免疫疾患と制御性T細胞の関係

1型糖尿病、関節リウマチ、多発性硬化症などの自己免疫疾患では、 「自分の組織」を攻撃するT細胞が抑えきれず、臓器に慢性的な炎症が起こります。
多くの研究で、

  • 制御性T細胞の数が足りない
  • うまく働かない(機能不全)

といった異常が関与していることが示されています。

制御性T細胞を使った新しい治療(制御性T細胞の細胞療法)

現在、世界的に注目されているのが「制御性T細胞を利用した細胞治療」です。

  • 患者さん自身のT細胞を取り出す
  • 体外で「制御性T細胞」に育てて数を増やす
  • 再び体内に戻し、自己免疫反応を落ち着かせる

というイメージの治療で、 1型糖尿病・関節リウマチ・多発性硬化症などを対象に、 多数の臨床試験が進んでいます。

また、2025年には、病気の原因となるT細胞を“その場で制御性T細胞に作り替える”という新しいアプローチも報告されており、 より抗原特異的で副作用の少ない免疫療法につながる可能性が期待されています。

今後の課題と展望

  • 制御性T細胞が途中で性質を変えてしまわない(安定性)ようにすること
  • 標的臓器(膵臓・関節・中枢神経など)にピンポイントで働くTregを作ること
  • 治療のコスト・製造方法を、一般の患者にも届くレベルまで下げること

これらの課題がクリアされれば、ステロイドや免疫抑制剤に頼りすぎない自己免疫治療が現実的になっていくと考えられています。


2. アレルギーと制御性T細胞

アレルギーは「寛容の失敗」でもある

本来、人の免疫は「花粉」「食べ物」「ダニ・ホコリ」などに対しては、 過剰に反応せず寛容(トレランス)を保っています。
この寛容を支える重要な細胞の一つが、粘膜やリンパ組織に存在する制御性T細胞です。

アレルギーや喘息の患者さんでは、

  • 制御性T細胞の数や働きが低下している
  • 炎症の強い環境でTregがうまく機能しない

といった異常が報告されており、「制御性T細胞の機能不全がアレルギーの持続に関わっている」と考えられています。

アレルギー治療とTreg

現在のアレルギー治療(抗ヒスタミン薬、ステロイド、抗IgE抗体など)に加えて、

  • 舌下免疫療法や皮下免疫療法(アレルゲン免疫療法)

では、「アレルゲンを少量ずつ長期間投与することで、制御性T細胞を誘導し寛容を回復させる」というメカニズムが注目されています。

将来は、

  • アレルゲン特異的制御性T細胞を増やす治療
  • 制御性T細胞を増やす薬やバイオ医薬品

などが、喘息・花粉症・食物アレルギーなどに応用される可能性があります。


3. 臓器移植と制御性T細胞 ― 「拒絶を防ぐ免疫抑制」から「寛容を作る治療」へ

現在の移植医療の問題点

腎移植・肝移植・心臓移植などの臓器移植では、

  • 免疫が「移植された臓器=異物」と認識して攻撃する(拒絶反応)

のを防ぐため、強力な免疫抑制剤を長期にわたり使う必要があります。
しかし、長期の免疫抑制は、

  • 感染症
  • がん
  • 薬剤性腎障害など

のリスクを高めてしまうという課題があります。

制御性T細胞による「移植寛容」の発想

制御性T細胞は、本来「自分の組織」を守る細胞ですが、 移植臓器に対しても“攻撃をやめさせる”方向に働かせることができるのではないかという発想から、

  • ドナー抗原特異的制御性T細胞を用いた細胞療法

が、腎移植や肝移植などで試験的に行われています。

初期の臨床試験では、

  • 安全性はおおむね良好
  • 一部の患者で免疫抑制薬を減らせる可能性

などが報告されており、「薬で全体を抑えるのではなく、制御性T細胞で移植臓器に対する寛容を育てる」という方向性が見えてきています。

未来への展望

  • ドナー特異的Tregを安定して大量に作る技術(CAR-Tregなど)の開発
  • 移植直後の強い免疫反応を抑えつつ、長期的には薬を減らすプロトコルの確立
  • 腎移植だけでなく、心臓・肺・小腸移植などへの応用

が進めば、「一生免疫抑制剤を飲み続ける」から「免疫の性質そのものを書き換える」時代へと近づいていくと期待されています。


4. がん免疫療法と制御性T細胞 ― 「味方」にも「敵」にもなる細胞

腫瘍内の制御性T細胞は「がんの味方」になりうる

がんの周り(腫瘍微小環境)には、がん細胞と戦うT細胞だけでなく、 制御性T細胞も多く集まっていることが分かっています。

腫瘍内のTregは、

  • がん細胞を攻撃するT細胞の働きを弱める
  • 免疫チェックポイント分子(CTLA-4、PD-1など)を高く発現する

ことで、がんが免疫から逃げるのを手助けしていると考えられています。

チェックポイント阻害薬との関係

免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ、ペンブロリズマブなど)は、 がんを攻撃するT細胞のブレーキを外す薬ですが、 同時にTregにも影響を与えることが知られています。

最近の研究では、

  • チェックポイント阻害薬が、腫瘍内の制御性T細胞を増やしてしまう場合がある
  • その結果、治療効果が頭打ちになる可能性がある

ことも指摘されており、 「制御性T細胞をどう制御するか」が今後のがん免疫療法の重要なテーマになっています。

がんでの制御性T細胞標的治療の方向性

  • 腫瘍内の制御性T細胞だけを優先的に減らす薬(抗CCR4抗体など)
  • ワクチン療法や細胞療法と組み合わせて、攻撃T細胞を増やしつつ制御性T細胞を抑える戦略
  • 制御性T細胞の機能を“再プログラム”して、がんを攻撃する側に転じさせる研究

などが精力的に行われています。

すでに運用されている「がん免疫細胞療法」(CAR-T療法や樹状細胞ワクチン、養子T細胞療法など)とも組み合わせることで、 「攻撃する免疫細胞」と「ブレーキ役の制御性T細胞」のバランスを同時にコントロールする時代が見据えられています。 (この点については、今後「がんの免疫細胞療法」のページを改訂するときに、もう一度詳しく触れます)


制御性T細胞研究のこれから ― 未来への展望

坂口教授らによる制御性T細胞の発見から約30年、
今では自己免疫疾患・アレルギー・臓器移植・がんをはじめとする多くの領域で、 制御性T細胞を標的にした治療が臨床試験レベルにまで進んできました。

2025年時点では、

  • 自己免疫疾患・炎症性疾患・臓器移植を対象とした制御性T細胞の細胞療法の試験が多数進行中
  • がん領域では、制御性T細胞を抑制・再プログラムする戦略が、チェックポイント阻害薬・細胞療法と組み合わされつつある
  • 日本発の研究として、抗原特異的制御性T細胞を安全に作り出す新しい技術も報告されている

など、まさに「基礎研究から応用に橋がかかりつつある」段階にあります。

この記事の位置づけとお願い

このページは、「制御性T細胞とは何か」「どんな病気にどう関わり、どんな治療が見えてきているのか」を 一般向けに分かりやすくまとめたものです。

  • ここで紹介した治療の多くは、まだ臨床試験段階であり、誰でも受けられる標準治療ではありません。
  • 具体的な病名や治療に関する疑問がある場合は、必ず主治医・専門医に相談してください。
  • 研究や臨床試験の状況は日々更新されるため、最新情報は信頼できる医療機関・公的機関の情報もあわせてご確認ください。

今後、この総論ページを起点に、
「自己免疫疾患 × 制御性T細胞」「アレルギー × 制御性T細胞」「移植医療 × 制御性T細胞」「がん免疫療法 × 制御性T細胞」といった形で、 それぞれの個別ページも分かりやすく整理していければと思います。

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